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最高裁判所第二小法廷 昭和26年(あ)1804号 判決

主文

本件上告を棄却する。

当審における訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

弁護人伊勢勝蔵の上告趣意は末尾添付の別紙書面記載の通りである。

第一点について。

第一審第一回公判において、出席の検察官より被告人の検察事務官に対する第一、二回供述調書の証拠調べ請求があったのに対し、被告人側がこれを証拠とすることに同意せず、その証拠調べについて異議を申立てた結果、裁判所より右証拠調べの請求が却下せられたにもかかわらず、次ぎの第二回公判において検察官が右供述調書の一部を被告人に読聞かしていることは所論の通りである。しかし、第一審第二回公判調書によると、検察官の被告人に対する質問の途中に、「新川小学校でどの様な話をしたのか」との質問に対し、被告人は「前に検察庁で調べられた時に述べた通りであります」と答えた旨の記載があって、検察官も、そこで、初めて前記供述調書の該当部分を被告人に読聞かせるようになったこと及び右と同様の方法によるその後の検察官の質問に対しても、被告人は引続き、一々、任意の答弁をしていることが窺われ、かかる質問の方法に対し被告人側から異議を申立てた形跡も認められない。そして、右供述調書は、更らに同公判で検察官より再度証拠調べの請求があったのであるが、同審第三回公判調書によると、被告人側もついにこれを証拠とすることに同意していることが認められる。以上のような訴訟の経過に照らして考えると、右のような質問も、検察官がいきなり被告人に証拠能力のない供述調書を読聞かして、裁判所に予断を与え、又は被告人に誘導尋問を試みたものと解すべきではなく、右は被告人に争いのない部分につき、質問の内容を補充するというただ質問の便宜によったまでのことであると解するのが相当である。従って、被告人に対する検察官の右質問が違法であることを前提とする所論判例違反の主張は、既にその前提において採用することができない。論旨は理由がない。

第二点について。

しかし、第一審第二回公判調書によると、検察官が被告人に対し、「慰霊堂からのことはこの通りか」と問い、同人の検察事務官に対する第一回供述調書第四項以下及び第二回供述調書を読聞かせたのに対し、被告人は、「猿ぐつわをはめるという点は全然私がいうたのではありませんが、他のことは大体その通りであります」と答へた旨の記載があり、これと前記各供述調書中の右検察官が読聞けた部分を綜合すると、被告人は同公判で、第一審判決が摘記しているところと同趣旨の供述をしたことが窺われるから、同判決を目して虚無の証拠を採用したということはできない。従って、第一審判決にかかる違法があることを前提とする所論は、明らかに、この点で失当である。論旨は採用の限りでない。

第三点について。

所論は、原審で控訴趣意として主張せず、従って原判決が判断を明示していない第一審判決の瑕疵を非難するものであって、上告適法の理由とならないばかりでなく、第一審第三回公判調書によると所論の各供述調書は同公判で適法に証拠調べが為されたことが認められるから、論旨はこの点においても亦失当である。

なお、記録を精査しても、本件につき刑訴四一一条を適用すべき事由は認められない。

よって、同四〇八条一八一条一項に従い、裁判官全員一致の意見で主文のように判決する。

(裁判長裁判官 栗山 茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 谷村唯一郎)

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